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SPEED OF FLOW (セバスティア 番外編)

2011–04–29 (Fri) 23:06
このお話は、宝物に収録されている作品、
“丘を越えて、彼方へ”のキッド様より頂いた、
『-COSMOPOLITAN-』に感銘を受けて、書かせて頂きました。

私史上、未だかつてないタイプの お話で、
勝手に動く登場人物たちに、書き手が翻弄されましたorz

そんなに、前進したかったのですね・・ご両人。

それでは、いってらっしゃいませ。



SPEED OF FLOW (キッド様へ)セバスティア番外編

セバスティアは、すぐそこだからと、僕の腕に手を添えて、街路を歩き出す。
人通りの多い通りなのに、僕の耳に響くのは、
音楽のように軽やかに鳴る彼女の靴音だけ。
馬車の立てるガラガラという音も、人々の喧騒も聞こえない。
僕とセバスティアの周りだけ、音が遮られているようだった。

「何処へ?」
見上げるようにして問い掛ける。
クスリと笑い、小首を傾げてみせるセバスティアは、何だか楽しそうだ。
「着いてからのお楽しみです。」
低めの声が、優しく溶ける。

流れが、ゆっくりに感じる。
すれ違う人々の流れ、車列の流れ、時間の流れ。
ああ、僕の鼓動が早いからなのかも知れない。

さっきの店から、ほんの1ブロック先。
小さな構えの、たいして愛想も無い作りのドアの前で彼女は立ち止まった。
「ここです。」
ドアノブを握ろうとする彼女の手を制した。
「女性にドアを開けさせたりさせないで下さい、セバスティア。」
少し目を見開いた彼女は、すぐに、ニッコリと微笑んだ。
「シエル。ドアを開けて下さいますか?」
僕も、微笑んだ。
「もちろんです、レディ。」

ドアの中は、じっくりと、丹念に選び抜かれたのであろうものばかり。
極めてシンプルなデザインのものだけで構成されていた。
手入れに気を使われているものたちは、
何を主張するでもなく、ただ、居心地の良い空間を作り出している。
客たちも、適度な距離を保つスツールに腰掛けて、
思い思いに、静かな声で会話を楽しんでいる。
今まで入ったことの無い雰囲気のバーだった。
どうも、他のバーに比べて、女性の客が目立つような気がした。
「ここのワインゼリーが人気なのですよ。
主人が趣味で作ったものを、常連客に出していたのが人気を呼んで。
今日は、タウンハウスにお泊りだそうですし、ぜひ、貴方に食べて頂きたくて。
もし、お厭でなければですが」
セバスティアは、気遣う笑顔で僕を見る。
酒類は、一応は嗜む事が出来るが、別に好きなわけでもないのを知っているのだった。
しかし、製菓会社の社長としては、人気のあるスイーツの味は試しておきたい。
「貴方が勧めるのなら、ぜひ味を確かめなくてはなりませんね。」
そう言うと、セバスティアは、ほっとしたように口角を上げた。

運ばれて来たゼリーは、デザートグラスの中で、宝石のように輝いていた。
クラッシュされて、ガーネットレッドが存分に光を乱反射させる。
この粒を繋いでアクセサリーを作れば、きっとセバスティアに似合うだろう。
その陶磁器のように滑らかで白い肌に、映える筈。
紅茶色の瞳を、より妖艶に見せて、近寄りがたい程に美しいだろうと思った。
「美しいな。」
それは、想像の中のセバスティアに贈った言葉。
「綺麗でしょう。」
そうとは知らないセバスティアが応えた。
知られていなくても、僕の心臓は、勝手に心拍数を上げてしまう。
僕がゼリーを口にするまで見ているつもりらしいセバスティア。
頬が熱くなる前に、ゼリーを一匙、口に運んだ。
暗赤色の宝石は、熱で蕩けて、舌の上を流れて行く。
甘味は、食べやすくする程度にしか加えられていない。
後口をよくする為だろう、ほんの微かに、レモンの風味を感じる。
けれど、概ね、ワインそのままの持ち味を生かしたスイーツだ。
癖の少ない、フルーティーなタイプのワインを使っている。
僕は、ワインそのままを味わうより、この方が好きかも知れない。
「お気に召したようですね。」
そう言って、ふわりと笑ったセバスティアは、僕の表情を読むのが上手い。

いつの間にか、肩を寄せるようにして話していた。
クスクスと笑いあう僕たち。

「シエル。」
セバスティアが、ふいに僕の名を呼んだ。
どこか、甘い響きにドキリとする。
「・・はい?」
ふふっと、息を零すような笑い方をした。
「呼んでみただけです。貴方の名前が美しいから。」
一瞬で、音を立てて血が逆流する。
僕の顔も、耳も、熱くて燃え上がりそうだ。
「シエル。」
死にそうだ。
でも、目を反らす事も、閉じる事も出来ない。
紅茶色の瞳に、釘付けになっている。
「何度呼んでも、飽きませんね。」
なんで、そんなに楽しそうに笑うのだろう。
「シエル。」
これ以上、そんな声で呼ばれたら、心臓が壊れる。
意を決して、僕は、反撃に出た。
あまり、というか、かなり様にならない反撃だったが。
「セ、セバス・・ティア。」
目を大きく見開いて、予想外の展開に驚いているようだった。
僕は、やられっぱなしでいるのは、性に合わない。
さっきのは、相手の動きを止めただけ。
本当の反撃は、これからだった。
「貴女の名前も、美しいですよ。セバスティア。」
甘さの滲む声なんか、どうやったら出るのか分からない。
それでも、呼ぶ事に、僕の声に乗せる事に意味がある、と思う。
セバスティアが、クスッと笑った。
「もっと、私の名前を呼んで。シエル。」
額のくっつきそうな距離まで、近づいたセバスティア。
「小さな声で、呼んで。」
そういうセバスティアの声が、囁くような、小さな声だった。
僕は、言われた通り、小さな声で、呼んだ。
「セバスティア。」
セバスティアは、嬉しそうに目を細め、優しい顔で僕を見ている。
「シエル、もう一度。」
そんなに、強請られても・・、恥ずかしいのだけれど。
「ね?」
僕は、彼女には勝てないのだろうか。
「セバスティア。」
「はい。シエル。」
僕の体からは、きっと湯気が出ていた。
いや、勢いからいって、蒸気だったかもしれない。

その店にいたのは、多分、長くて1時間足らず。
セバスティアが馬車に乗り込むところまでを見届けてから、タウンハウスへ戻った。
タナカがすぐに風呂の用意をするとか言ったけれど、
後で用意するように言って、自室のベッドに倒れ込んだ。
暫く、セバスティアが僕の名を呼ぶ声を、思い出していたかったから。

名前を呼ぶ事、名前を呼ばれる事の意味。
そんな事を、僕は、初めて考えたのだった。

end
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たままはなま

Author:たままはなま
生息地域 日本で唯一、神無月の無い県
誕生日  5月24日(双子座)
血液型  AB型
行動の指針 後悔は少ない方がいい。やらずに後悔する位なら、今やって失敗した方がいい。「このままで、明日、命を落としても後悔しないか?」これが、最終判断の基準です。
黒執事キャラ占いで、47%がセバスチャン、タナカが33%、劉が10数%、葬儀屋が8%、アバーラインが数%、坊ちゃんが1%で出来ていると出た人。
歯医者の待ち時間や、通勤の運転中にも、次回の執筆のネタを考えている創作好き。
こんな管理人でございますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます<(_)>

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