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その淑女、指導 (セバスティアⅡ)

2011–03–18 (Fri) 20:41
このお話は、「その淑女、邂逅」のパート2でございます。

セバスチャンの性別が女性設定ですが、
多分、違和感は少ないのではないかと思います。

”くさもち”ようとん様に元気を出してお仕事をして頂きたく書きました。
ようとん様には、元気を出して頂けたようです。
皆様にも、元気を出して頂けたなら、嬉しく思います。

執事タナカが、結構いい仕事を致しております^^


それでは、いってらっしゃいませ。



その淑女、指導 (セバスティア Ⅱ)

広大な敷地に建つ、広大な屋敷の小さな主は、
週に1度、非常に形容に困る顔をして朝を迎える日がある。
その日が来るのを楽しみに待っているのは確かな事なのだが、同時に、
出来れば、その日を飛ばして次の日が来ればいいのにとも思わずにいられない。
だから、主の表情の比率は、こうなってしまう。
笑顔が58パーセント、渋面が40パーセント、眉間の皺が2パーセント、。

ファントムハイブ家の優秀で老練な執事、タナカが、
主の為に新しく迎えた女家庭教師が、その原因なのであった。

以前、断ることの出来ない夜会に致し方なく出席した時に知り合った女性だ。
目が疲れるほどに色と光が溢れた夜会で、そこにいる色とりどりの人間たちは、
怠惰で、傲慢で、下らない噂話と儲け話に飛びついて、
あとは、今夜限りの享楽の相手を物色するばかり。
少年とは思えないほど大人びて聡い彼の眼には、
そんな人間たちは、かえって色が無く、墨色の濃淡くらいにしか見えなかったのだが、
その中にあって、彼女だけが確固たる人間の色をしていた。
彼女に取っても彼だけが本物の人間に見えて、
タイミングを逃さず、彼に声を掛けたのだった。
そうして、また折りがあれば会えるといいとは思っていた訳だが、
ある日、彼の凄腕の執事が、彼女を屋敷に連れて来た。
彼に必須の教養の中で、一番疎ましくも忌々しい、ダンスの教師として・・・。

社交ダンスは、貴族には無くてはならない教養なのであるが、
それを充分に理解していて尚、避けて通れるものなら避けて、
もう、いっそ無かった事にしたいと本気で思っている彼なのである。
今まで、二人の女家庭教師が呼ばれ、とても熱心に教えたにも係わらず、
どう頑張っても上達の見えない生徒に絶望し、
自分の教育能力に限界を覚えて、タナカに辞任を訴え、辞めて行った。
しかも、一人は、家庭教師をする事自体を辞めてしまったのだ。
まったく気の毒な事になって申し訳が無いと、思ってはいる。
思ってはいるのだが、誰しも苦手な事はあるのであって、仕方が無い。
しかし、彼女は、そんな言い訳など歯牙にも掛けてはくれない人なのだ。
彼女と話をするのは、本当に楽しくて仕方がない。
けれど、彼女とのダンスのレッスンは、本当に辛くて仕方がない。
幾ら頑張っても、言われた通りの優雅でしなやかな動きなんて出来やしない。
そうして、表情の構成比が決まった。

主が窓の外を見遣ると、屋敷への道を、一台の馬車が向かって来るのが見えた。
執務机の上の時計を確かめる。
やはり、今日も定時だ。
彼女が、とても時間に煩く、予定を狂わされる事が嫌いなため、
以前のように、遅く始めてレッスン時間を短縮してしまったり、
適当な理由を付けて、急遽取りやめにしたり出来なくなってしまった。

気持ちの落としどころに悩む少年伯爵は、
浮き立つようでいて、重いという、複雑な心境そのままを映した足取りで、
窓を離れて、彼女を待つために階下の広間へと向かった。



執事タナカがドアを開け、道を譲れば、長身の彼女の姿が現れる。
「ごきげんよう、シエル。先週のレッスンの復習はなさいましたか?」
挨拶もそこそこに、彼女は言う。
成果を見せて頂きましょうかと書かれている清々しい満面の笑みを貼り付けて。
「ごきげんよう、セバスティア。まあ、それなりに・・。」
笑顔にならない引きつった顔で、タナカに救いを求めて目を泳がせるが、
その高齢の執事は、ほっほっほっと人の良さそうな笑顔を残し、
一礼して、さっさと部屋を後にしてしまった。
先代が幼少の頃から執事として仕え、今また、
先代の急死によって後を継いだこの少年伯爵の執事として仕えているのだが、
流石は、ファントムハイブ家2代に渡って仕える執事、
喰えない事この上ない高齢者なのである。
主は、内心で悪態を吐きながら、舌打ちしたいのを我慢した。
舌打ちなどしようものなら、セバスティアの冷たい視線と叱責が飛ぶ。
授業料を払う側であるのに、びくびくしなければならない理不尽さ。
まったくもって、悩ましい限りである。

「本日の予定は、まず、カドリールの復習。
当然ながら、ランサーズも復習いたしますよ。
そして、舞踏会のメイン級のダンス、ワルツのレッスンに入ります。
よろしいですね、シエル。」
ニッコリという名の笑顔で、彼女は無言の圧力を掛けてくる。
笑顔のバリエーションが極端に少ない主には、
彼女の笑顔のバリエーションの豊富さは、驚異的に思えた。
各種の笑顔を駆使して、彼女は色々な事を言葉にせずに伝えてくるのだ。
言葉でなく表情で、然も笑顔であるので、
主は、反論も出来なければ、不機嫌を行動にすることも出来ない。
仕事の場面では、どんな老獪な相手も手玉に取るのに、
彼女には、どういう訳か頭が上がらない主。
ただ、不思議に、それを不愉快とは微塵も思わないのだった。



カドリールには、基本の数種の動きと、6種のパターンがある。
数種の動きには、フランス語の名前が付けられており、
レッスンは、6種のパターンそれぞれ、動きの名前を言われた通りに繋げていくものだ。
フランス語の得意な主は、指示通りの動きは分かるし、
物覚えが良い方なので、6種のパターン構成もじきに覚えることが出来てしまったのだが、
如何せん、体を思うとおりに動かせないという、唯一にして最大の欠点があった。
それでも、他のダンスに比べて幾分砕けた感のあるダンスなので、
女家庭教師は、渋い顔をしながらも、一応の合格としてくれた。
ランサーズは、カドリールに類似のものだから、
これも、昨夜の付け焼刃の復習のお蔭で、なんとかなった。
「とりあえず踊れるようになったという程度なのですから、
伯爵家の当主として、何処へ出しても恥ずかしくないような、
優雅さを持ったダンスにするには、まだまだですよ、シエル。」
そういう彼女を見上げ、声も無く頷く。
主の顔を見下ろして、彼女は眉尻を下げ、大げさに溜息を吐いて見せる。
「貴方は、まず体力を付けるところから始める必要があると思いますね。
体もこんなに細くていらっしゃる。食事をきちんと取っていらっしゃらないのでは?」
返す言葉に詰まる。
昼食前や夕食前に小腹が空くと、シェフに甘いものを作らせては食べ、
その結果、食事を残してしまう事が多々あるのだ。
タナカにも注意はされているが、この主は、一向に聞く耳を持たない。
「と、取り敢えず一息入れませんか。丁度、タナカが冷たい飲み物を持って来たようですし。」
ノックの音に救われて、主は彼女をエスコートしてティーテーブルへ案内した。

「セバスティア様、坊ちゃんの今日のダンスレッスンは如何でございましょうか?」
よく冷やしたミントティーを勧めながら、タナカが尋ねる。
「カドリールとランサーズは、一応合格のうちといったところですが、
体力的に、少々問題がおありのようにお見受けいたします。」
執事タナカは、わが意を得たりとでもいうように、困った顔をして深く頷く。
「坊ちゃんは、スイーツはお好きなのですが、
どうも、食が細くていらっしゃいますので、私共も心配いたしております。」
執事のいらない一言に、主は次の展開が見えて狼狽した。
やはりそうだったという目をした彼女が、主を見据えている。
「いや、僕はまだ子供ですから、食べきれないだけで・・・。」
「シエル。」
彼女は、黒い靄が見えそうな笑顔も端正だ。
「都合の好い時だけ子供を盾になさるのは、感心しませんね。」
そうして、主のスイーツの時間は、決められた時のみとの取り決めがされた。
執事タナカ、何処までが計算なのか分からない、得体の知れない男である。



休憩のあとは、本日の課題、ワルツ。
男女が密着して踊るため、昔は、ふしだらだと言われていたが、
今や、メイン級のダンスであり、ワルツが踊れなければ、
舞踏会に行く意味が無いという程なのである。
主は、本来、舞踏会に行く事に一切の興味がないし、
そもそも、ダンス自体に毛ほどの興味も持っていないのだが、
しきたりと決まりごとの国、ここ英国の名門貴族の当主としては、
子供の年齢だからといって、ワルツが踊れないでは済まされない。
「よろしいですか、シエル。
ワルツは、格調高くエレガントに踊らなければなりません。
指の先にまで神経を使い、流れるようなステップを踏んで、
周りのペアにぶつからないように気を配りながら、
女性が美しく見えるようエスコートをする事が求められます。」
聞いている主は、すでに頭痛がしてきそうになっている。
「そんな難しいダンスは、僕にはまだ早いのではないかと思います。
先に、ガロップかポルカを教えて頂いた方がよいのではありませんか?」
虚しい抵抗だろうとは思うが、一応、念のために、
もしかしたらという希望を繋いで、主は笑顔で提案してみた。
彼女は、ふふふと黒く笑う。
「難しいものからこなしていけば、自信も付くというものです。
基本的に、私はスパルタですから。
私の教育方針に何か問題でもございますか?」
キラキラと輝く笑顔で、彼女は言ってのけた。
こうなってはお手上げだ。素直に従うしか道は無いと覚悟を決める。

まず、ウインナワルツから教授される事になった。
「ポジションは、男性は女性の背をしっかりとホールドし、
反対の手で、女性の手を優しく包むように、軽く握って、
腰骨が密着するように寄り添います。」
この段階で、主は問題を感じていた。
女性としては非常に背の高い彼女と、年齢の標準よりも小柄な主では、
どうしても身長差が大きすぎるのだ。
そして、その差ゆえ、不都合な事になっていた。
つまり、主の顔が丁度・・・彼女の胸の高さであるという事実。
「よろしいですか、曲が始まったら、まず左足から出ます。
そして、ナチュラルターン。次は、足を前へ滑らせるように・・・。」
意識しようとは思っていないが、目の前の景色が・・困る。
流れるようなステップだの、エレガントな動きだのが出来る筈が無い。
ガタガタとした無様な動きになってしまうのは当然といえば当然だ。
暫くステップを踏んでいたが、彼女が急に立ち止まり、主を見下ろした。
「・・・・・。」
主も、バツの悪い顔をして、彼女を見上げる。
「ぅ・・・・・・・。」
怪訝な顔をする彼女。
「どうしてそう体を反らすのです?これは、密着して踊るダンスですと申し上げたでしょう。」
そんな事は知っているけれど、密着すると、顔が近くなり過ぎる。
この距離が、最低限離しておくべき距離に思える主には、
体を反らす以外に方法が無かったのだ。
「その・・、何というか・・・。」
胸が近すぎるとは言えなくて言葉に詰まり、考えを巡らすうちに、
焦るからなのか、頬が熱くなってきたのを感じ、主はさらにしどろもどろになっていくばかり。

言いたい事が有りそうなのに、言い淀んで、しかも頬を染めていく主。
けれど、何故か視線は繋がったままで、長い睫に縁どられた眼が困惑していて、
ドキリとするような可愛らしさに、彼女は、我知らず甘い笑みを零した。
意志が働くより先に体が動いて、主を胸に抱き寄せてしまう。
主の頭に頬を寄せ、彼女は囁くように言った。
「お身内以外の女性に近付くのが恥ずかしいのですか?」
蕩けそうな優しさの低めの声が、頭上から降り注ぐ。
呼吸が止まる!!主は思考するのもままならなくなってしまった。
心臓は、鼓動を急ぎ過ぎて、打っているのかどうか逆に分からない。
顔に感じるこの弾力と温かさは、距離を保てなくなった彼女の・・・。
「ふふっ、可愛らしいのですね、シエル。」
彼女は、主を抱く力をキュッと強くした。

「あ・・、セバスティア、あの、・・密着し過ぎでは?」
主は、どぎまぎしながらも、何とか言葉を捻り出した。
「ショック療法です。」
くすくすと笑う彼女は、主の様子を愉しんでいる。
「お身内以外の女性と密着して踊るのに抵抗があっては、
どんなに熱心にご教授しても、踊れるようにはなりませんからね。」
腕にすっぽりと収まる華奢な主は、体温が高めで、頬に触れる髪の滑らかさもあって、
彼女は、まるで猫を抱き締めているようだと思った。

「セ、セバスティア、そろそろ・・離して頂けませんか。」
湯気が見えそうな程真っ赤になっている耳が見える。
くすりと笑って、彼女はそろりと腕を解くと、
考え事をするように、その鋭角的な顎の下に細い指を当てて言った。
「シエル、ワルツをレッスンする間は、私の言う通りに出来なかったら、
お仕置きをすることにしましょうか。」
主は、訝しげな顔で彼女を振り仰ぎ、一歩引いて聞き返す。
「お仕置きって、・・何で?」
謎めいた笑顔で、くすくすと声を立てる彼女。
「レッスンの時は、私がルールです。
優雅に踊れるようになるまで厳しくお教え致しますので、どうぞ覚悟なさって下さいね。」



午後のお茶までの時間と決まっているレッスンが、
こんなに気の遠くなる程長かったとは、主は知らなかった。
ポジションが崩れたらお仕置き、彼女の足を踏んだらお仕置き、
そんな風に、お仕置きと言っては、主をキュッと抱き締める彼女。
身内の女性たちとも、それ程会う機会の多くない主は、
婚約者である従姉のエリザベス以外に、こんな目に遭わされた事は無い。
レッスンが終わり、執事タナカがお茶を運んで来きた時には、
主は、すっかり疲れ果て、この後の読み掛けの本を読む為に開けておいた時間は、
おそらく、転寝の時間に変更になるだろうと予想された。
「坊ちゃんは、随分と熱心に練習をなさったご様子ですね。」
半分くらい魂が抜けていそうな主を見て、タナカがにこやかに言う。
「ええ、今日のレッスンだけで、私の足を踏まなくなられたのですよ。」
「それは大変な進歩でございますね。
セバスティア様は、ご教授がお上手でいらっしゃいます。」
穏やかな笑顔を交わし話しているこの二人は、以外と気が合うらしい。
ぐったりと椅子に凭れ、やり取りを見ている主は、
この二人に組まれるのは、自分に取って厄介なのではないかと、
ぼんやり、予感のように考えていた。



彼女を乗せた馬車が遠ざかる。
迎える時にも複雑だったが、見送る時にも複雑な表情の主。
ほっとして、名残惜しくて、ちょっと苦しい。
ニッコリ笑って暇の挨拶を済ませてしまうと、名残惜しさの欠片も無く、
気持ち良いくらいにあっさりと帰って行く彼女に、胸の奥でチクリとするものがある。
少しくらい振り返ってくれてもいいだろうにと、主は思う。
微笑みを湛える美しい横顔は、すっきりと前だけを見ていて、
自分だけが取り残されたような気分になってしまうじゃないか、と。
名を呼べば、輝く笑顔でこちらを向くと分かっていても、
そんなみっともない真似は出来ないと思うのだ。
まるで取り縋るみたいな、そんな真似は、彼女に見せられない。
小さくなった馬車に繋がる見えない糸を振り切るように、
くるりと踵を返して、主は邸内へと戻って行った。
小さな背中の一歩後ろに、執事タナカが付き従った。



end



※※※  ※※※  ※※※

あとがき

ご希望下さる方がおありなら、何作か連作してみようかと思ってみたり・・。
このお話の坊ちゃんは、自分の気持ちがまだ分かっていない状態です。
セバスティアの気持ちは、まだ窺い知れないですし、
タナカが、なにか企んでいるっぽい気もいたします。
続きを書いたら、読んでみてもいいと思って下さる方がおありでしたら、挙手!

次回の作品は、「そんな事もあるかもしれない(ep 1)おまけ」
を予定致しております。書くのが楽しみです^^
                  たままはなま
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たままはなま

Author:たままはなま
生息地域 日本で唯一、神無月の無い県
誕生日  5月24日(双子座)
血液型  AB型
行動の指針 後悔は少ない方がいい。やらずに後悔する位なら、今やって失敗した方がいい。「このままで、明日、命を落としても後悔しないか?」これが、最終判断の基準です。
黒執事キャラ占いで、47%がセバスチャン、タナカが33%、劉が10数%、葬儀屋が8%、アバーラインが数%、坊ちゃんが1%で出来ていると出た人。
歯医者の待ち時間や、通勤の運転中にも、次回の執筆のネタを考えている創作好き。
こんな管理人でございますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます<(_)>

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