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シンデレラの不快 (駒鳥 夜会の後で 編)

2011–03–12 (Sat) 10:13
このお話は、駒鳥シエルとセバスチャンが、
タウンハウスへ帰宅してからのお話でございます。

沢山の書き手様方が、様々にお書きになられてきたお話に、
私の作品も入れさせて頂く事となりました。
正直、緊張の面持ちでUP致します。

皆様がお気に召して下さる事を祈りつつ、

それでは、いってらっしゃいませ。




シンデレラの不快 (駒鳥 夜会の後で)

シエルとセバスチャンは、ドルイット子爵邸からタウンハウスへと帰ってきた。
夜の闇に紛れて何度も飛んで、シエルの身体が冷え切っている。
セバスチャンは、あらかじめ暖めておいた部屋の、暖炉の傍のソファーまでシエルを運んで、
そろりと腕から下ろし、座らせて、肩にガウンを羽織らせた。
「冷えておいででしょうから、すぐにお湯の用意をいたしますが、
その前に、何かお飲みになりますか?」
「いや、いい。」
暖炉の火を見つめて、短く答える。
「では、少々お待ち下さいませ。」
いつものように一礼して、部屋を後にした。
シエルの瞳に苛立ちの色を見た気がしたが、
女装を嫌がっていた上、誰にも性別を不振がられなかった事に不満を感じていたらしいので、
それが原因だろうと思い、放っておいた。

入浴の準備を整え、シエルを呼びに部屋に戻ったセバスチャンは驚いた。
つばの下にぐるりと造花をあしらった可憐な帽子はテーブルの端に、
シルクサテンの黒いロンググローブは、片方は床に、片方はソファーの背に、
ブーツも脱いで壁に投げつけたのか壁際に、
シエルを飾っていたあれこれが、無残にそこらに散らばっていた。
ドレスも脱ごうとしたようだが、それでなくても不器用なシエルに、
一人でドレスを脱ぐ事は出来ず、中途半端にずれた状態になっている。
「坊ちゃん、どうなさったのですか?」
セバスチャンは目を瞠った。
苛立ち、不機嫌な気配で、ソファーに伏せているシエルが叫んだ。
「気分が悪い!」
気持ちを逆撫でしないよう、気を付けてゆっくりと近付く。
床にだらりと垂らされた右手の甲を見て、セバスチャンは驚いた。
真っ赤になって、擦れたような傷がある。
よく見れば、右腕の二の腕から肘の下辺りまで、同じように傷が出来ているのだ。
「坊ちゃん、この傷は?!」
そう言って手を取ろうとすると、邪険に振り払われた。
「消えない!あの感触・・。」
なるほど、そういう事だったかと納得し、小さく溜息を吐いた。
傷のある場所は、今夜の仕事のターゲットであるドルイット子爵が触れた箇所。
仕事は終わったのだと緊張が解けて、
色を匂わせるような触れ方をされた不快感が、ふつふつと呼び戻されてしまったのだ。
「馬鹿ですね、こんなに傷だらけにして。
こんな痛い思いをする前に、どうして私に仰らないのです。」
小振りなシエルの頭を、そっと撫でる。

本当にどうしてか。
この主人は、こんな風に何も言わずに一人で思いを抱え込んでしまう事が多い。
自分は、ただ執事として傍にいるだけではないのだというのに。
「さあ、お湯が冷めないうちに、お身体を清めて差し上げましょう。」
シエルを抱き上げる手は、どこまでも優しい。
くたりと身体を預けてくる様に、ゆるく口角が上がる。
小さなキスを一つ、髪に落として、荒れた部屋を後にした。

湯浴みの為、ドレスを脱がせ、きつく締められたコルセットを外す。
案の定、そこにもシエルの不快感がくっきりと印されていた。
右の細腰の辺りを、服の上から盛大に擦ったらしい赤みが一面だ。
また一つ、溜息が落ちる。
この赤みと傷は、身体だけでなく、シエルの心にもある筈。
そう思うと、自分もまた、どこか深いところにチリリと痛みを感じた。
「お湯に入られると沁みると思いますが、綺麗に流してしまうまで、
少しの間だけ我慢なさって頂きます。
私の身体を傷つけたお仕置きだと思って下さいね。」
一瞬の間が空いた。
「僕の身体を僕が傷付けただけだ。」
「貴方の全ては私のものですから、貴方の身体も私のものなのですよ。」
セバスチャンがそう言うと分かっていてシエルが言ったと、
それを理解している上で、セバスチャンも答える。
「代わりに痛がってくれる訳でもないくせに。」
「貴方とは別の痛みがあるのです。」
シエルは目を伏せ、微かに眉根を寄せて、フンと鼻を鳴らした。
するすると衣服を脱がし終え、シエルを湯船に浸ける。
「っ・・・。」
痛さに目を細める。
「今後、自傷行為は一切許しません。よろしいですね?」
そう言いながら、湯に浸かったシエルの右脇腹の傷を掌で覆った。
口で何と言おうと、結局のところ、この悪魔はシエルには甘いのだ。
セバスチャンの手が触れているところだけ、
ヒリヒリと沁みる感じが少しだけ遠退いた気がする。

シエルは、バスタブの縁に頭を預け、大人しく身体を洗われている。
セバスチャンは柔らかなスポンジを、丁寧にゆっくりと動かして、
苛立つ心を宥めるように、静かに洗い上げていく。
傷に当てた手を極力離さないように、片手が器用に仕事をこなす。
暫くして、シエルがほぅっと細い息を吐き出した。
硬かった表情が、次第に和らいでいく。
洗った髪から落ちた雫が、温まって上気した頬を伝い、まるで涙のようだ。
美しいけれど哀しく見えて、セバスチャンは雫を親指で拭った。

何の前触れも無く、シエルの人差し指が、セバスチャンの鼻先に乗せられた。
滅多に無いそんな悪戯に、セバスチャンは目を丸くする。
「こいつは、悪い悪魔だ。」
そう言うシエルは、挑むような眼差しでセバスチャンを見つめている。
「まあ、悪魔ですから。」
そう答えながら、シエルも悪魔の資質充分だろうと思う。
生粋の悪魔を、こんなにも捕らえて離さない稀有な存在。
魂だけでなく、身も心も何もかもを欲さずにいられなくしてしまった。
「こいつ以外の奴に触れられたら、気が狂いそうになった。」
そのときの不快を思い出すのか、僅かに顔を顰めて、シエルが言う。
セバスチャンは、目を瞠った。
これは、甘くはないが、確かな告白。
触れていいのは、お前だけと言われたも同じ。
苦笑を零すシエルからは、湯気に紛れて、強力な引力を持つ色香が立ち昇る。
抗えず、引き寄せられるままにシエルに口付ける。
「そんな事を仰ると、明日の予定をキャンセルしなくてはならなくなりますよ。」
頤を捉え、至近距離から碧い瞳の奥底を覗き込もうとしてみる。
「明日は、本社で月末の定例報告会に出席する予定だと言ったのはお前の筈だが?」
「急な体調不良なら、致し方ないでしょう。
坊ちゃんは、執事に熱を上げていらっしゃいますので。」
セバスチャンは、艶を満たした眼差しでシエルを捉える。
「馬鹿な事を。熱を上げているのは執事の方だろう。」
シエルは、負けず嫌いな目で見返し、頬を弱く抓る。
「言い間違えましたね。坊ちゃんは、執事に熱を上げさせられていらっしゃいますので。」
シエルがくすくすと笑う表情に、もう不機嫌さは無い。
「どれ程に熱を上げさせる気なんだ?」
「成り行き次第、ですかね?」
二人して笑い合いながら、何度か軽く唇を啄ばんだ。



シエルをベッドの縁に腰掛けさせ、夜着に着替えさせる為に、バスローブを脱がせる。
袖を通すのに、その細い手を取った。
そこには、日に当たる事の少ない真っ白な肌に赤い生々しい擦り傷。
直視するのが躊躇われる痛々しさで、
セバスチャンは、やはり、放っておく訳には行かない気がした。
「厭な傷ですね。消してしまいましょう。」
傷の付いた理由が気に障る。
もっと手酷い報復をして置けばよかったと思う。
こんな印は、不快なばかりだ。
「お前、あの男の手の骨を折っただろう。」
ぴたりと動きを止めてしまった事が、主人には回答として理解される。
「あまり手酷い“おいた”をしてくれるなよ。
警察(ヤード)の連中に煩くされるのは面倒だからな。」
ニヤリと笑う顔は、言葉とは裏腹に、Good Boyと褒めているのだ。
「私が、貴方に不利になるような事をするとお思いですか?」
クスクスと笑いながら腕の傷に口付けると、
セバスチャンの唇が触れたところから、傷が無くなっていく。
そのまま、キスは手の甲へと下りる。
跪いていたセバスチャンは、さらに身を屈めた。
「こちらも・・・。」
細腰への触れるか触れないかの微妙なキスは、
堪えようも無い甘い声をあげさせて、シエルの思考に霞を掛ける。
「さっき食べたばかりだろう。」
そう言って、滲んでしまいそうな意識を覚醒させる。
「傷を治しているだけですよ。」
傷を治す口付けの合間に、ちろちろと舌先でくすぐりながら、そんな事を言う。
「っん・・。腕の傷を治したの・・と、ぁ・・・やり方が違うじゃないか。」
びくりと肩が上がるのを抑えられない。
その間も、セバスチャンは、くすくすと笑いながら口付けを繰り返していく。
「ああ、そうですね。せっかくのディナーですのに、デザートがまだです。
坊ちゃん、今から頂いてもよろしいでしょうか。」
「食べ始め・・ているくせに、今更・・・ぁ・・は・・・っ。」
傷を全て治してしまうと、キスは、そのまま徐々に上昇して、
胸の薄紅の辺りを彷徨っている。
「幾ら食べても食べ足りません。」
シエルの薄い皮膚の下、青く透ける血管をセバスチャンのキスがなぞる。
胸元から首を通って、顎先まで。
吐息でセバスチャンを引き寄せて、広い背中に腕を回す。
そのまま後ろに身体を倒し、二人でベッドに沈んでゆく。



あの忌々しい拘束具とドレスの厚い生地越しにであってさえ、
この悪魔以外が、明確な色の認識をもって触れれば、
凄まじい嫌悪感に気が狂いそうになるのだと思い知らされた。
依存している気は無いが、離れられなくなっているのかもしれない。
シエルに取って、それは、恐れていた事態。
自分の足だけで立つ事が出来なければ、この先、確たる自分の意思で動けなくなる。
失いたくないものはあってもいいが、
失って歩けなくなるのなどは、許されない。
高められていく熱の波間で、
その熱に何もかもを融かせてしまってはならないのだと、シエルは一人思っていた。

シンデレラの本当の不快を取り除けない不快。
己が悪魔の身だからなのか、悪魔でなくてもそうなのか。
どれ程に熱を上げさせても、融かしてはしまえない。
シエルの瞳の奥底の哀しみは、自分に沁みて痛いと知った。
それでも、少しづつでも融かせるものならと、セバスチャンは思うのだ。

シエルの縋り付く力が、ぐっと強くなった。
「あ、ん・・ぁ・セ・バ・・スチャ・・・も、イク・・!」
「ええ、いっしょに・・。」

せめて、意識がホワイトアウトする瞬間だけでも、
融けあうことを許されたら、いいのに。



end



※※※  ※※※  ※※※

あとがき

ラスト2行は、二人ともが思っている事として書いております。
これ以上近づけない所まで近づくと、
逆に、それ以上は立ち入れない強固な壁に突き当たってしまうのかも知れません。
少しづつでも、さらに近づく事を諦めないセバスチャンと、
これ以上は危険水域と、自分を律しようとする坊ちゃん。

もっと、寄り添えればいいと思います。
                    たままはなま
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Author:たままはなま
生息地域 日本で唯一、神無月の無い県
誕生日  5月24日(双子座)
血液型  AB型
行動の指針 後悔は少ない方がいい。やらずに後悔する位なら、今やって失敗した方がいい。「このままで、明日、命を落としても後悔しないか?」これが、最終判断の基準です。
黒執事キャラ占いで、47%がセバスチャン、タナカが33%、劉が10数%、葬儀屋が8%、アバーラインが数%、坊ちゃんが1%で出来ていると出た人。
歯医者の待ち時間や、通勤の運転中にも、次回の執筆のネタを考えている創作好き。
こんな管理人でございますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます<(_)>

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