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月の船

2013–07–04 (Thu) 06:20
このお話は、呟く所でフォロワーの方とお話していて、
「もしも坊ちゃんが浮気されたら」という話題になり、
“弁解のために執事がそっとちかづいていく。
「坊ちゃん、聞いて下さいませんか?」
「お前から聞くことなんて何もない!」なんて。切ないです。”
というお話になりまして、そのシーンを書いてみました。

また、セバスチャンが手袋を外す所は色気があるシーンだと、
やな先生の落書きページにありましたので、
そのシーンも書いてみたいと思いましてお話を書きました。

上手く書けているかどうかは分かりませんが、
読んでみてやって下さいませ。

それでは、行ってらっしゃいませ。



月の船



最近、ヤツは屋敷の見回りが済んだ深夜、何処かへと出掛けて行くらしい。
何故それを僕が知っているのか。
僕が眠れていないからだ。
一日の最後の見回りをする頃には、確かに僕は眠っている。
けれど、僕はそのまま朝までゆっくりと眠れるような子供ではないのだ。
悪夢を見る日の方が、夢も見ない日よりも多い。
夢見が悪くて目を覚ましても、ヤツが屋敷に居る時には直ぐに寝室に来て、
もう一度眠れるようにとホットミルクなどを持ってくるのだが、
このところは、それが無い。
そして、翌朝、僕を起こしに部屋に入ってきたヤツからは、
知らない甘ったるい匂いが微かにするのだ。
女物と思われる香水の残り香。
毎回違う香りだ。
気が付かない振りでやり過ごすが、気分がいいわけはない。
聞き出す事は簡単だ、ヤツは僕の命令には背けないのだから。
なのに、黙っているのは、理由を知りたくないからだ。
キツイ女物の香水の残り香をさせた事が、以前にあった。
あの時は、情報を得るのに、他に方法がなかったので仕方が無かったのだ。
でも、今回は違う。
今は裏の仕事は何も入っていない。
それでも尚、こんな匂いを付けて帰ってくる理由は、一つしか思い浮かばなかった。
悪魔は、享楽に貪欲な生き物だからだ。

契約はヤツを縛る。
しかし、首輪付の犬だからといって、主人以外に気を引かれないのではない。
ヤツはオスで、オスはやはり本能でメスを求めるものなのだ。
僕に本能を引き留める術は無かった。
だから、黙っているのだ。

月が天空高く昇り切った時間に、僕は目を覚ました。
だが、ヤツは来ない。
いつ何時、“鼠達”が来るかも分からないこの屋敷からは、
そう遠く離れてはいないのだろうが、今、ここには居ないのだ。
何処にいようとそんな事はどうでもいい。
ここではない何処かに行っているという事実だけで充分だった。
枕に顔を埋める様にして、僕はゆっくりと細く息を吸い、
同じ分だけ細く息を吐いていく。
目頭が熱い。
瞼を閉じれば、溢れた水分がアイロンの効いたピローケースに吸い込まれる。
僕は何と愚かなのだ。
こんな事で・・・。
下らないと思うのに、瞼の隙間からは止め処なく温い水が零れてくるのを抑えられない。
呼吸は僅かに震えている。
けれど、寝室は静寂のままだ。
大丈夫だ、もうじきこんなものは止まる。
いや、止める。
朝、瞼を腫らしてヤツに見咎められるような無様な真似はしない。
僕はヤツの飼い主らしく、何時ものままに尊大な顔をして目を覚ましてやる。
少しだけ、もう少しだけ止めるのに時間が必要そうだけれど。

まだ眠れずに、ぼんやりと滲む視界で天井を見上げていた。
ドアが開く音がして、慌てて寝返りを打つ振りをして俯せになる。
「坊っちゃん、お休みになれないのですか?」
返事をする気は無い。
ヤツは足音を忍ばせてベッドの脇まで来て立ち止まった。
「坊っちゃん?」
また、香水の匂い・・・。
匂いが歯痒い。
肺が苦しくなる。
ああ、心臓も痛いかもしれないな。
こんな風に近付かれたくない。
早く部屋から出て行ってくれないだろうか。
「どうなさったのです?坊っちゃん。」
僕の上にヤツが屈み込んできた。
更に強く香水が香って来る。
もう限界だった。
「香水の匂いがキツイ!鬱陶しい!」
バサリとシーツを跳ねのけて体を起こした。
「眠れないだろう!邪魔だ!出ていけ!」
屈み込んでいたヤツの顔が近過ぎてドキリとした。
「坊っちゃん、何をお考えになられていらっしゃるのか大体の想像が付きますが、
私の話を聞いて下さいませんか?」
ヤツの言い分など聞きたくもなかった。
「お前から聞く事なんて何も無い!」
ベッドへと身を沈め、シーツを頭から被ってしまう。
固く目を瞑り、体を丸めて、気持ちを殻に閉じ込める。
「坊っちゃん、この香りは庭の薔薇からエッセンスを取り出し、
他の花やハーブからも香料を作って調香している香水の香りですよ。」
「はっ、苦しい言い訳だな!」
ばかばかしくて笑える。
「私が嘘を吐かないのは、坊っちゃんが一番良くご存知でしょう?
庭で摘んだ花弁を水蒸気蒸留してエッセンスを抽出するところからしているのです。
先程も少し火傷をしてしまいましたよ。」
怪我の跡など直ぐに消えてしまうヤツだが、程度によってはまだ残っているかもしれない。
一応、確認してみてもいいだろう。
身体を起こしてベッドヘッドに体をもたせ掛ける。
「見せてみろ。」
手袋のままの左手を差し出してきた。
「どうぞ。まだ治りきっていない筈ですからご覧になってみて下さい。」
絹の白い布が、大柄な割にほっそりとした指にぴたりと沿っていた。
手首のボタンを外して、指先から引っ張ると、契約印が現れる。
僕の瞳の中のものと同じその印は、僕の犬である証。
すっかり露わになった右手の指先に、薄く火傷の跡が残っているのが確認できた。
「ふん、確かに火傷は負っていたようだな。」
黒い爪の際に、まだ赤味が残っているのが見えた。
「こうして手袋をしていない私の手を見せるのは、坊っちゃんだけですよ。」
声が、香水の匂い同様に甘い。
「どうして香水を調香しているんだ?」
嘘は付かないが、訊ねなければ言わないままでいるのは契約違反ではない。
「どうして?私が貴方の為以外に行動するとでも?」
素肌の指先が、僕の唇をなぞる。
手袋をしていない指は、他の誰にも見せる事のないものだ。
この温度を知っているのは、僕だけ。
「また何かの折に必要になるかと思いまして。
コルセットを締め付ける時の坊っちゃんのお姿もお可愛らしかったですが、
寧ろ、外す時の方が背徳的でそそられましたね。」
まるで何かの陰謀の様に、この僕がドレスを着せられて捜査をした時の話だ。
アン叔母様に括れが大事だとか言われて、内臓が出るかと思う程に締め上げられた。
あの時に出会ったある子爵とは、どういう因果かあちこちで縁があって、
会う度に、全くもってうんざりしている。
「それと香水の調香と何の関係があるんだ?」
「次にドレスをお召しになられる時には、より本物のレディらしく、
香水もお使いになられた方がよろしいかと思いまして、裏の小屋で作っております。」
ヤツはにっこりと音のしそうな笑顔を向けてきた。
「僕は、もう二度とドレスを着る様な仕事はしないぞ!」
重いし、苦しいし、動けないし、冗談ではない。
「仕事でなくても構わないと思いますけれど。」
「着ない!」
仕事でも着ないものを、なぜ私的に着るというのだ。
「では、香水だけをお召しになられるのはいかがです?
今夜の調香の香水は、坊っちゃんがお好きな白い薔薇をベースにしたもので、
きっとよくお似合いになられますよ。」
そう言って、胸元のポケットから小振りな瓶を取り出した。
蓋を開け、少し指先に取ると、僕の手首にそれを塗る。
紅茶のような香りが立ち上った。
「初めは紅茶の様な香りがしますが、その後、白い薔薇の香りに代わり、
最後は甘い果実の香りになります。」
その説明を聞き、僕は、ヤツが何をイメージしたのか分かった。
契約が終了する時に、この悪魔の好みの味に仕上がった魂の香り。
滴るほどに美味な、熟れた果実。
あからさまな奴だな。
ふっと笑いが込み上げる。
「悪くないな。」
満足げに口角を上げる悪魔が僕をベッドに縫いとめる。
左手だけで器用に夜着を肌蹴ていきながら、右手を僕の目の前に差し出す。
「こちらも・・・。」
手袋を、手首に指を入れて脱がせていくと、外気に晒される事の少ない肌が現れる。
色を感じさせる光景だ。
「お気に召したのでしたら、この香水に名前を付けて下さいますか?」
月に忠誠を誓う執事の姿を思い出し、僕はこの香りの名前を思いついた。
「そうだな、洒落すぎているが、“月の船”ではどうだ?」
僕は、全ての願いが叶えられたその時、月に攫われる。
そして、魂を喰らわせるのだ。
「良い名前ですね。その名を頂きましょう。」
もう既に僕は香りしか身に纏っていない。
両腕をヤツの首の後ろに巻きつけて引き寄せ、耳に口を寄せる。
「存分に喰らうがいい。」
カーテンの隙間からは、頂点を下り始めた月の明かりが漏れ入って、
ベッドの近くまで届いていた。
「それでは、坊っちゃん・・・。」
夜明けまでは、まだ遠い。



END

※※※  ※※※  ※※※

お話の中に、香水を調香する話しが出て参りますが、
実際、機材と材料が揃えば、個人で作る事も出来るようです。
“水蒸気蒸留”は科学の実験器具が揃えられれば、
薔薇が8分咲きくらいの時に摘んだ花びらで香油とローズウォーターに分離し、
香油の方を使って、香水用のアルコールと蒸留水で薄めて、
薔薇の香水を作る事が可能なのだそうです。
ただ、かなりの量の薔薇の花びらが必要だとか・・・。

ですが、最近は材料がセットされた調香セットの通販もございます。
私も、かなり以前に調香セットを試してみましたが、
なかなか楽しい物でございます^^
自分の好みに合う香りを調香なさってご覧になられるのも良いですよ。

因みに、日本の練香も調香セットを通販しております。
私も作ってみた事がございますが、香水とはまた違った楽しみがございました。

次回は、“Fall”の続きをUP出来ればと思っております。
皆様のまたのお越しを心よりお待ち申し上げております。

               たままはなま

追記 お礼SSは3ページございます。ENDまでお楽しみ頂けておりましたら幸いです
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Author:たままはなま
生息地域 日本で唯一、神無月の無い県
誕生日  5月24日(双子座)
血液型  AB型
行動の指針 後悔は少ない方がいい。やらずに後悔する位なら、今やって失敗した方がいい。「このままで、明日、命を落としても後悔しないか?」これが、最終判断の基準です。
黒執事キャラ占いで、47%がセバスチャン、タナカが33%、劉が10数%、葬儀屋が8%、アバーラインが数%、坊ちゃんが1%で出来ていると出た人。
歯医者の待ち時間や、通勤の運転中にも、次回の執筆のネタを考えている創作好き。
こんな管理人でございますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます<(_)>

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