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Hertbeat 2

2013–04–14 (Sun) 21:53
やっと新作を書き上げる事が出来ました。
体調の関係で少しずつしか書けませんでしたが、
なんとか仕上げられて嬉しいです。

今回はパラレル設定の「Hertbeat」の続編となっておりますので、
未読の方はそちらからお読み下さると分かりやすいかと思いますが、
こちらだけでもそれなりにはお楽しみ頂けるようにしたつもりです。

それでは行ってらっしゃいませ。




Heartbeat 2



遠くにうっすらと残照が残っていた空は、すっかり夜の闇に覆われていた。
長いキスに湿っていた唇はとうに渇き、
激しい鼓動と浅くなった呼吸を宥めるように抱きしめていた腕を解いて、
セバスチャンは僕に薄く微笑んだ。
「そろそろ戻りましょうか。」
すっと立ち上がると、手を差し伸べてきた。
あまりに自然な動きだったので、つい、その手を取ってしまった。
後悔したが、もう遅い。
手を繋いだまま車を止めた所まで並んで歩く。
僕はなんとも居た堪れなかった。
マンションが立ち並ぶ中の公園には二人きりしかいなくて、
誰にも見られてなどいないけれど、問題はそこではない。
自分自身が知って、分かっている事が問題なのだ。
セバスチャンと並んで歩いたのはこれが初めてなのだった。
殆どの場合、僕が先を歩き、セバスチャンは後ろから付いて来る。
それが今までの関係だったのに。
こんな風に横に並んで、あまつさえ手まで握られて歩くなどとは。
状況に思考が追いつかないというのはこういう事かと納得した。
何時ものように助手席のドアを開け、僕を乗せる。
握っていた手を名残惜しげに離すセバスチャンが、額に軽く唇を付けた。
ザッと音がしそうな勢いで体を引いた僕を見て、セバスチャンがクスリと笑う。
「おや、先程のキスをお忘れですか?」
一瞬で耳まで赤くなっているだろう自分の姿が鏡など無くても分かる。
ああ、そうだった。
セバスチャンというのはこういう奴だ。
何気ない風を装って人の感情に爪を立てて反応を楽しむのだ。
せっかく落ち着きを取り戻していた僕の心臓は、また早鐘を打っている。
助手席のドアが閉じられてしまうと、
車の中の空気がここへ来るまでとはまた違う意味で、僕には居心地が悪く感じた。
拾われた猫というのはこんな感情を持つのかもしれないと思う。
不安と僅かな安堵がない交ぜになったもやもやとし気持ち。
するりと運転席に落ち着くと、セバスチャンは涼しい顔で静かに車を発進させた。
車窓を流れていく景色を見ているフリをしながら、
何か当たり障りの無い話題でも口に出そうかとしたのだけれど、
どんな事をどう話せばいいものだろうと懸命に考えを巡らすのに何も浮かばず、
用も無いのに運転席を見やる勇気も起きなくて、
結局は黙り込んだままで外に目を向けている以外になかった。
公園からセバスチャンのマンションまでは2ブロックほどしか離れていないが、
駐車場に車が止まった時には何処へ遠出をして来たのかというくらい、
すっかり気疲れしてしまっていた僕は、
会社の取引先の喰えない狸や狐達との会議の方が、
周到に計算して用意をしておける分まだしも気が楽だと思った。

車を降りる時にまた手を取られ、家に着くまでその手が離される事は無かった。
無言で視線をあらぬ方向に向け続ける僕に、
セバスチャンが声を掛ける事はなかったけれど、
真横を僕の歩速に合わせて歩く間、僕に何度も視線が向けられていると分かっていた。
温度でなく、感触でもないのに、確かに皮膚感覚として眼差しを感じる。
しかも、含まれている感情まで伝わってくるような気がするなんて。
手を握られている以上、僕の体温が上がっているのは隠しようもない。
今、セバスチャンは確かに、その顔に笑みを浮かべているのに違いなかった。
それぞれの部屋へと別れて行く時にやっと手が解放され、
これでやっと思考と感情の平静を取り戻せると思った僕だったが・・・。
「今夜は“寄り道”をしてしまいましたので、夕食は簡単なものにさせて下さいね。」
明らかに強調して“寄り道”とセバスチャンは言った。
わざと僕を動揺させ反応を楽しんでいる事に流石に腹が立って、
キッと鋭い視線で振り返って睨みつけてやると、
セバスチャンはさも愉快そうにクスクスと笑いながら部屋に消えた。
何という性質の悪い男なのだろう。
彼への評価の中から“品行方正”の項目は除外しなければならない。
もとより僕とは倍以上に年齢が離れているのだし、
あの見た目からしても誰とも付き合った事がないなどと思ってはいなかったが、
僕をからかう様子から推察するに、
それ相当の場数を踏んでいるとみて間違いないだろう。
なのに、何処へ行っても引く手数多であるセバスチャンが、
一体何時から、そして何をきっかけとして僕の方を向いたのかとふと考えた時、
自分自身に向かっても同じ疑問を持った。
僕は、何時の間にこんな感情を積もらせてきたのだろうか。



セバスチャンが夕食の支度をする間、僕は自室に籠って調べものをする事にした。
顔が見える所に居て、また構われるのはご免だったから。
初めて打ち込むキーワードをパソコンに打ち込んで調べていたが、
僕は、「言葉」に翻弄されていた。
正しくは「言葉の意味」に。
幾種類もの辞書を巡り、心理学的、哲学的な意味までを検索してみた。
けれど、何かしっかりと納得できないという感じがするのだ。
この身の内に湧くものに、僕は名前を付けかねて苛立っている。
実態を把握できるものとは闘う事が出来るが、漠然としたものと闘うのは難しい。
名を与える事で「それ」に実態を取らせようとしたのだが、
返って曖昧模糊としていくばかりなのだった。
これでは闘いようがない。
僕は途方に暮れてしまっていた。
パソコンの画面に表示された言葉の羅列を見ながら、深い溜息を零す。
「やはり聞くべきではなかったな。」
車の中での事を思い返し、呟く。
このままでは遠からず重大な局面を迎えてしまうのは目に見えている。
アン叔母様は、こういった事には非常に勘の鋭い人だ。
特に院内の場合などは噂が立つよりも早く察知しているのを僕はよく知っている。
ただ、問題が起きる気配があるのでなければ干渉したりはしない。
けれど、今回は僕という身内が係わり、
しかも僕が未成年であるという事実は大きな意味を持つだろう。
万一にも噂になってしまったなら、父の会社を継いでいる僕も打撃を受けるが、
セバスチャンの方がより大きなダメージを受けるのは間違いない。
それを回避するには、開きかけている扉を閉じるのが一番有効なのだ。
だが、僕には、今まで存在さえ知らなかった扉を閉じる方法が分からないのだった。



簡単なものと言った割には、皿数が少ないだけで、
きちんと栄養のバランスが考えられた食事が用意されている。
仕事で疲れているだろうに、全くこまめな男だと思う。
本人に言わせれば、料理は趣味の一つなのだそうで、
調理に集中する事で仕事の事を忘れられ、良い気分転換になるのだと言う。
今夜も、シェフにも劣らぬ腕で作られた僕の舌を満足させる食事を平らげた所で、
セバスチャンが食後の紅茶と林檎のコンポートのアイスクリーム添えを運んできた。
「坊っちゃん、また何かお一人で考え込んでおいでですね。」
カップに指を掛けようとしていた僕にセバスチャンが言った。
瞬時に自室を出て来てからの自分の行動を思い返すが、不自然な所は無い筈だ。
「別に何も無い。」
素知らぬ顔で紅茶を一口飲み下す。
向かい側に座っているセバスチャンが表情を読めない顔で僕を見ている。
今までの経験からいって、こんな時の彼はとても不機嫌になっているのだ。
思考を読まれまいと努めて平静にデザートを口にしていく。
暫く、食器の音だけがしていた。
ついと席を立って僕の後ろに回ったセバスチャンが耳元で囁いた。
「何も無かった事にはさせませんよ。」
声の硬さにドキリとして振り返る。
「何年つきあっていると思っていらっしゃるのですか。
貴方が先を読んで、お一人で決着を図ろうとなさる事くらい見当が付いていますよ。」
僕の心を本当に見透かしているような視線に怯むが、ここで気圧されてはならない。
「話が見えないな。」
全く訳が分からないという風に素っ気なく答える。
「自覚していらっしゃらないと思いますが、
坊っちゃんが嘘を吐く時には、ある決まった癖があるのです。
私にならしごく簡単に見破れてしまう癖がね。」
片頬だけでニヤリと不敵に笑う。
「ほう、どんな癖があるというんだ?」
はったりかどうか見極めてやるという気で視線に力を込めて目を合わせる。
「お疑いのようですが真実です。どんな癖なのかはもちろん言いませんけれどね。」
にっこりの形に表情筋を動かしても悪い顔になる場合があるのは、
セバスチャンの家に預けられるようになってから知った。
僕が知る限り、この表情は門外不出で、殆ど誰も知らないに違いない。
“穏やか”“温和”“優しい”と評されるのは表向きの鉄壁の仮面によるもので、
こちらの方が彼本来の性質なのだ。
思考パターンを読んでくる厄介な相手を前に、
うかつにものを言って上げ足を取られてはならない時には沈黙するに限る。
そうすると、大抵の場合むこうから動く。
お互いの出方を探りあう黙り込んだままの状態が続いたが、
不意にテーブルに載せていた僕の手をセバスチャンが持ち上げ、指先をカリリと噛んだ。
驚いて手を引こうとするより早く強く握りしめられ動けなくなった僕に、
深い溜息を一つ吐いた後、セバスチャンは低い声で話し始めた。
「坊っちゃん、私が今日と言う日が来るのを何もせずにただ待っていただけだとでも?
この手を取る為にどれだけの時間を掛けたかお分かり頂きたいものですね。
マダム・レッドから揺るぎない信用を得続ける為に身辺に充分に注意を払い、
貴方が私の所にいらっしゃるのを少しでも楽しみにして下さるように、
料理の腕にも磨きを掛けましたし、それはもう色々と手を尽くしてきたのですよ。
今、坊っちゃんの手が私の中にあるのは必然なのです。
もちろん、私はこの先にあるだろう不安要素の事も念頭に置いています。
ですから未来に起こるかも知れない事態を思い悩んで、
お一人で勝手に答えを出そうとなさらないで下さい。
もしも本当にそういう事が起きた時には、二人で話し合いながら考えていきましょう。
それでよろしいですね?」
確認の様な言い方をしているが、それは既に確定だと認識させる為に言ったのだ。
“二人で”とセバスチャンは言った。
僕にはそんな発想は無かった。
これまで、どんな時でも一人で闘ってきたから。
両親という後ろ盾を失って以来、アン叔母様の家に身を寄せてはいたけれど、
家と会社を継いだ以上、家令であるタナカや会社の幹部達と相談はしても、
実質的には何事に於いても最終決断は僕一人が下すべきものだったのだ。
子供と侮られる不利を跳ね返す為にも、僕は己の足だけで立って見せ、
かつ、そこらの大人よりも充分に強くあらねばならなかった。
孤独だと思う暇も無く、歩を前へと進め続けて行く以外になかった僕には、
全ての答えは自分だけで出すものでしかない。
それを覆す言葉を聞いたのは初めてだったような気がする。
衝撃にぼんやりとする僕の視界にセバスチャンが距離を詰めるのが見えた。
柔らかな力で頭を胸に抱きとめられたようだ。
腕の力を後頭部に感じ、温かさとしっかりとした鼓動を頬に感じる。
「貴方は、声を出さずに泣く・・・。」
そう言われて初めて自分の視界がぼやけている理由を知った。
何か言おうとしたけれど、何を言えばいいのか分からない。
自分自身、悲しいのか嬉しいのかさえ判断できなかったのだから。
この力強く打つ心臓の音が、これからはずっと僕の傍にあるのだと教えるように、
セバスチャンは暫くそのまま動かなかった。



リビングのソファーに座ってナイトティーを飲む。
カモミールで香りを付けたものを選んだのは、
夕方からずっと気持ちが昂ぶっていた僕を落ち着かせる為だろう。
しかし、カモミールの香り以上に僕を落ち着かせたのは隣にある体温かもしれない。
今までは二人掛けの方に僕が、一人掛けの方にセバスチャンが陣取るのが常だったので、
ソファーで座る時にセバスチャンが隣に腰掛けるのは初めてだ。
直接体が触れる距離ではない。
カップを持ち上げて肘が当たらないくらいには離れている。
それでも隙間には確かに心地よい温度があって、
肌触りの良い毛布に包まっている時の様な感じがするのだ。
心と体から緊張を解くそれは、ゆるゆると眠りを誘う。
「お休みになられますか?」
僕の顔を覗き込んでセバスチャンが問い掛けた。
「ああ、そうだな。」
自室へ向かおうと立ち上がった、と思ったのだけれど・・・。
足に床を踏んでいる感覚は無くて、代わりに体がふわりと浮いた。
何が起きたのかと驚いている僕の目の近くにセバスチャンの顔がある。
やけにくっきりといい笑顔をして。
「お疲れのご様子ですので私が寝室へお連れします。」
踵を返したのは僕の部屋とは逆の方向で、つまりセバスチャンの部屋の方向だ。
「おい、僕の部屋は向こうだぞ。」
横抱きにされた状態で自分の部屋を振り返る。
「マダムとお話したのですが、思春期の健康な男の子でいらっしゃる坊っちゃんには、
そろそろそれなりのきちんとした知識をお教えする必要があると思いまして、
僭越ながら私がご教授させて頂く事になりました。
ですから今後、寝室はこちらという事で、ね。」
どうアン叔母様を言いくるめたのか知らないが、
セバスチャンの表情は “きちんとした知識”だけを教えるつもりの顔では断じてない。
脳内で激しい警鐘が鳴り、手足を必死にジタバタさせたが、
180センチ超えの男は難なく僕を連れて行ってしまったのだった。




END



※※※  ※※※  ※※※

この後、坊ちゃんの身に何が起こったのか・・・。
番外編として書けるといいなと思っております。

次回は呟く所でお世話になっている方からリクエストを頂きましたので、
それにお応えするお話を先に書く予定です。

体調が不安定で非常にスローペースでしか書けないのが悔しいくらいに、
色々と書きたいと思っているお話があります。
身体と相談しながら順次書いて参りますので、どうかまたお立ち寄り下さいませ。
皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。

             たままはなま
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Author:たままはなま
生息地域 日本で唯一、神無月の無い県
誕生日  5月24日(双子座)
血液型  AB型
行動の指針 後悔は少ない方がいい。やらずに後悔する位なら、今やって失敗した方がいい。「このままで、明日、命を落としても後悔しないか?」これが、最終判断の基準です。
黒執事キャラ占いで、47%がセバスチャン、タナカが33%、劉が10数%、葬儀屋が8%、アバーラインが数%、坊ちゃんが1%で出来ていると出た人。
歯医者の待ち時間や、通勤の運転中にも、次回の執筆のネタを考えている創作好き。
こんな管理人でございますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます<(_)>

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