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Voice Without The Sound

2012–03–28 (Wed) 19:29
このお話は、呟く所での姉が、
実際に見たセバシエ夢をお話にとリクエストして下さり、
少しだけ脚色してお話にしました。

私なりの解釈ですが、お気に入って頂ければ幸いです。
さくら姉さん、書かせて下さってありがとうございます。

それでは、行っていらっしゃいませ。



さくらさんに捧ぐ…
“Voice Without The Sound”

こんな生意気なガキの何処がいいのか、私にはさっぱり分からないわ。
見てくれの良さは認めるけど、ちょっと綺麗な子供ってだけじゃないの。
大人に対しての口のきき方もなってないわよ。
なのに、貴方はこのガキしか見ちゃいないんだから。
私の魅力が目に入る余地もないなんて、気に入らないわ。
あなたの行動の理由のすべてがこのガキだなんて、全く持って気に入らないのよ。
だから、私は少しだけ魔法を使うの。
まあ、種明かしをすれば、薬を使うだけなんだけどね。
別に命をどうこうしようっていうわけじゃないわ。
うっかりやり過ぎると私の命に係わるもの。
私のセバスちゃんを独り占めするいけ好かない子供に、
ちょっと悪戯するくらいどうってことないでしょ。
口を少し開けさせて・・・一滴。
これでいいわ。
悪く思わないでね、坊や。
坊やっていうほど可愛げのあるガキじゃないけど。
ふふふっ、明日が楽しみだわ。



「お早うございます。坊ちゃん、お目覚めのお時間ですよ。」
いつもの声が聞こえた。
甘さのある低めの声は、数多のご婦人方の耳を蕩かす危険な声。
まあ、僕には聞きなれたどうという事もない声なのだが。
厚いビロードのカーテンが開け放たれて、明るい光が瞼越しに眩しく感じられる。
刺すような光ではないから、今日は曇りなのだろう。
ぼんやりした頭で、まだ気怠いからだに指令を送り、もぞもぞとベッドで半身を起す。
くしゃくしゃと髪を掻き上げている間に、部屋には紅茶の香りが満ちていく。
今日は、ベルガモットの香りを付けた華やかな香りのアールグレイを用意したようだ。
足をベッドから下ろし、腰掛けた体勢になるタイミングで、
紅茶を注いだカップをヤツの手が差し出した。
「・・・・・。」
何が起きているのか分からなかった。
声を出し、口を動かして言葉を紡いだはずなのに、何の音も聞こえなかったのだ。
喉が乾燥して声が出にくかったのかもしれない。
思い直して、もう一度言葉を口にしてみた。
「・・・・・。」
やはり声が出ていない。
「坊ちゃん、失礼します。」
ヤツは、僕の手から素早くティーカップを取り上げ、テーブルに置き、
僕の前に膝を付いて口を開けさせ喉を確かめた。
「お声を出してみて下さい。」
言われた通りにするが、空気の通る音がするだけ。
ヤツが、整った眉を顰める。
「坊ちゃん、すぐにお医者様をおよび致しましょう。」
こうして、その日が始まったのだった。



医者は原因が分からないと言い、実質、匙を投げた。
セバスチャンは、眉間に深い皺を刻み、何か考え込んでいる。
横になっていたところで声が出るようになるわけでもないので、
僕は、書斎で本を読む事にした。
フランス語のレッスンとダンスのレッスンは休講にした。
口がきけないのをあまり外に漏らさないでいる為には当然の措置なのだが、
ダンスレッスンの休講は、セバスチャンをして“壊滅的”と言わしめる僕には、
願ってもない有り難い事態ともいえるのだ。
ワルツなど踊れなくても、取引の交渉にどれ程マイナスになる事もないものを、
まったく、紳士としての嗜みだなどと面倒以外のなにものでもない。
そんな事より、書類の山を片付ける方が百倍も有用だと思うのだが、
それだけでは円滑にいかないのだと言う。
ストレスが溜まっている為という事も考えられるので、
今日は仕事もしないでいるようにと医者に言われ、書類の整理も出来ない僕は、
仕事に追われて読めなかった本を読む事にしたのだった。

暫く本に没頭していた為、書斎の扉をノックする音に驚いた。
「・・・。」
入れと言おうとして声が出ない事に気が付き、扉を開けるしかあるまいと椅子から立つ。
扉の方へ足を踏み出そうとしたところでヤツの声。
「坊ちゃん、入りますよ。」
扉が開かれ、ヤツが入って来る。
そうだな、許可を知らせる合図を決めておけばいいのだ。
僕のいる部屋の扉まで、こんな風に静かに辿り着くのはヤツだけ。
そもそも、ヤツを通さずに僕の部屋の扉をノックするような者はいないのだし。
テーブルを2回ノックするとか、そんな合図を決めておこう。
椅子に座りなおしてヤツを待つ。
「坊ちゃん、お加減は如何ですか?」
僕の顔を覗き込み、ヤツが言う。
「・・・。」
相変わらず、息が喉を抜きていく音しかしない事を見せる。
「困ったことになりましたね。
お医者様の見立てでは病気の類ではないようですし、
心理的要因といっても、声が出なくなるような突発的な何かがあったようには、
記憶の限り思い当たる事がありません。」
紅茶の用意をしながら、茶葉の説明でもするようにヤツの唇から言葉が紡がれていく。
何か思い当たる事があったようだ。
僕は、先を促すようにヤツの目を見返す。
視線を受け止めたヤツは、作業を止める事無く口を開いた。
「多分、私の領分の者が何がしかの動きをしたのではと思います。」
事の起こりは、ヤツの領分の者。
魔物、死神、天使のような、人間とは理を異にする者達の世界に由来の何か。
そういう事なら、僕は何もする必要が無い。
ヤツに任せておけばいいのだ。
僕が動こうとしたところで、足手まといにしかなりはしないのだから。
ヤツが焼きたてのアップルパイを切り分けるのを横目に、ソファーに凭れ直す。
視線を合わせて、目に力を籠めた。
それを認めたヤツの口元に笑みが形作られる。
「イエス。マイ・ロード。」
言葉を口に出さずとも、こういう時の僕の言いそうな事など百も承知。
ふん、食えないヤツだ。



一人でいる時間の長い僕は、声を失っているからといって、普段とそう変わる事も無い。
独り言を呟いても声になっていなくて気が付く程度の事。
書類整理で一日終わる時など、殆ど人と話さないままでいるのだから、
大した不自由は感じないのだ。
面白そうかと思って取り寄せさせた本の予想外のつまらなさにがっかりして、
昼食後のひと時をサンルームのソファに座り、ぼんやりと庭の薔薇を眺めていた。
サンルームの扉をノックする音。
テーブルを二回コツコツと叩くと、ヤツが入って来る。
「坊ちゃん、少し気温が低くなりましたので、ひざ掛けをお持ちしました。」
そういえば、むき出しの膝がひんやりしているようだった。
僕の前まで来たヤツは、腰を少し屈める。
白い絹の手袋がひらりひらりと動いて、畳まれていた布を広げていく。
毎日見ているのに、コイツの動きの優美さにはいつも目を奪われてしまう。
ほっそりとした長い指が、見惚れる動きで、ふわりと僕の膝の上に柔らかな布を置いた。
本性は人間に忌み嫌われる魔物でありながら、無駄に美麗なのはどういう訳だろう。
これも、ヤツの言う美学とやらによるものなのか。
指の動かし方ひとつも、コイツはおざなりにはしない。
悪魔というのは、永遠を生きる為に些細な事にも拘るように出来ているのだろう。
そうする事で、持て余す時間をやり過ごす。
果ての無い時の流れを彷徨って行くのも、楽ではないということか。
時々こうして人間と契約するのは、いい暇つぶし・・・。
「坊ちゃん。」
腰を屈めた姿勢のままで、僕の顔を覗き込んできたヤツ。
眉の間に、浅く皺が刻まれている。
僕は、どうしたのかと問うように首を傾げた。
ヤツは、フッと口元を弛めたけれど、何処か寂しげだ。
「いつも、可愛げのない言葉を繰り出すその口を閉じさせたいと思うのに、
私の名を呼ぶ貴方の声が聞こえない事が、こんなに物足りないとは思いませんでしたね。」
僕は絶句した。
といっても、今は端から声が出ない状態なのだけれど。
名前を呼ばれない事を惜しむ悪魔。
唇の形だけで、ヤツの名を呼んでみた。
ゆっくりと差し伸べられる両手が、僕の背中に回される。
ヤツは、より深く腰を屈めて、僕の肩に頭を乗せるようにしてきた。
「貴方の声が、貴方の付けた私の名を呼ぶのを当たり前だと思っていましたが・・・。」
囁く程の声音で、耳の傍に言葉を落とす卑怯なヤツ。
僕は声を失っていて、答えることが出来ないというのに。

ヤツが、腕の力を強くした。
「坊ちゃんの声が・・聞きたいですね。
私の名を呼ぶ坊ちゃんの声・・・。」
聞き取れるギリギリの微かな声で、そう呟く。
仮初めの名でも、今はヤツを他の何からも区別するヤツの為の名を、
僕の声で聞きたいと言う。
「・・・・・。」
口を動かしても、声は出ない。
「・・・・・。・・・・・!」
叫ぶように空気を吐き出しても、音にはならずに、ただ喉を通り過ぎるだけ。
悔しい、もどかしい、歯痒い。
苦しくて堪らず、ヤツの執事服を握りしめた。
僕の頬にピタリと合わされたヤツの頬に、僕の眼から溢れた水滴が伝っていくのが分かる。
出ない声で、僕は叫ぶ。
「・・・・・!・・・・・!・・・・・!」
ヤツは、僕を胸にきつく抱き締めた。
「音にならなくても、ファントムハイヴの執事たるもの、
坊ちゃんのお声を聞きとれずにどうします?」
僕の執事は、満足げな声でそう言い放つ。
聞こえない声を、ヤツは、どんな聴覚で拾っているのだろう。
僕の失くした声は、ヤツの何処に届いているのだろうか。
唇を、しっとりと潤った柔らかな質感に塞がれた。
重ねられ、食まれ、離れては繰り返されて、ねっとりした重みに撫でられた次の瞬間、
そのまま重みは口腔へと入り込み、僕の舌に絡みつく。
不意の事で抵抗する余地もなく、跳ね上がる心拍と頬の熱さに目が眩みそうだ。
力強い腕が僕を胸に密着させているから、身じろぎもままならず、
意識がふわふわして、何も考える事が出来なくなっていった。
ただ一方的に、貪られる事しかできない僕。
熱くて熱くて、どうしていいのか分からないほど熱くて、融ける。
膝がガクガクと震え、力が抜けそうだ。
気が付くと、ヤツの広い背中に腕を回してしがみ付いていた。
何も考えられず、感覚だけが冴える。
押し寄せる波は僕を翻弄し、より高みへと運ぶ。
もう感触すら定かにならなくなっていく。
そして、世界が白く滲んで消えていった・・・。



「坊ちゃん・・・。」
私の名を呼ぼうと、必死に空気を送り出してくれたことが、こんなにも胸に迫る。
空気の震えが音になっていなくても、私の耳には、貴方の声が聞こえた。
喉でなく、心で叫んでいる貴方の声が。
腕の中に閉じ込めて、呼吸を奪う様に唇を捉え、高鳴る心音を愉しんだ。
私の名を叫び続けるこの人の心の声が途切れる瞬間まで。
力が抜け、意識の飛んだ体をソファーに横たえ、額に軽くキスをする。
「坊ちゃん、少しの間、此方でお待ち下さいませ。」
耳の傍でそう告げ、ひざ掛けを坊ちゃんの胸まで引き上げてくるむ様にすると、
するりと立ち上がった私は後ろを振り返った。

「いつもながら、本当に不躾な方ですね。グレルさん。」
厚いカーテンの後ろから、するりと姿を現したのは、
事あるごとに私と坊ちゃんの周りをうろちょろとする目障りな赤い死神。
「ああーん、その凍りつきそうな視線が堪らないわ!」
くねくねと体を捩り、まったく気持ちが悪い事この上ない。
しかし、この異様な言動の男、気を許せない曲者なのだ。
「種明かしはして頂かなくて結構です。坊ちゃんの声を戻して頂きましょう。」
感情を揺らすことを期待している相手には、感情を向けないことが効果的だ。
私は定型の笑顔を作った。
ただ、坊っちゃんの声を戻す気はないとでも言おうものなら、
その舌を口の中に収めきる前に引き出して切り落としてしまう気でいる。
方法を聞きだす為には、殺しさえしなければいいのだ。
どうせ簡単には死なないわけだし、幾らか手荒にする程度なら問題ない。
「い、いやーね、セバスちゃんたら、ほんのちょっとしたお遊びじゃないの。
そんなに本気にならないでよぉ。」
手をひらひらと振りながら、見たくもない笑顔を見せる赤い眼鏡の死神。
「おや、どうして私が本気だと思うのです?」
一歩踏み出せば、死神は一歩引いていく。
「そんな怖い笑顔してたら本気だって分かるわよ!」
不可解な表現に首を傾げる。
死神は後ずさりながら続けて言った。
「そもそも悪魔ってるわよ!セバスちゃん!!」
彼は、私の背後を指さす。
私が本気の時には、背後に本性の何かが現れるらしい。
「それでは、坊っちゃんの声を戻して下さる気になられましたか?」
ニッコリと微笑んだ。
「か、顔はやめて…!!」



坊っちゃんの声は、翌朝には無事に戻り、
またあわただしい日々が始まったファントムハイヴ家なのだった。



END



※※※  ※※※  ※※※

あとがき

長期のお休みの前に7割がた書いていたものを仕上げました。
まだリハビリのような状態ですが、一生懸命に書きました。
皆様にお気に入って頂ける作品になっていましたら嬉しいです。

新作も冒頭を書き始めています。
連載途中のものも書きたいのですが、
同じテンションで書けるようになってから進めたく思います。
お待ち下さっている皆様、
どうかもう少しお待ち下さいますようお願いいたします。

               たままはなま
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Author:たままはなま
生息地域 日本で唯一、神無月の無い県
誕生日  5月24日(双子座)
血液型  AB型
行動の指針 後悔は少ない方がいい。やらずに後悔する位なら、今やって失敗した方がいい。「このままで、明日、命を落としても後悔しないか?」これが、最終判断の基準です。
黒執事キャラ占いで、47%がセバスチャン、タナカが33%、劉が10数%、葬儀屋が8%、アバーラインが数%、坊ちゃんが1%で出来ていると出た人。
歯医者の待ち時間や、通勤の運転中にも、次回の執筆のネタを考えている創作好き。
こんな管理人でございますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます<(_)>

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