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Heartbeat

2011–07–31 (Sun) 10:59
このお話は、キッド様より頂いた、
“ピーターパンによろしく”の続きです。
余りに素敵なお話しでしたので、お願いして、
続きを書かせて頂きました。

頂き物は、普段は“宝物”のカテゴリーに入れていますが、
どうしても引き離せないので、
“セバス&シエル”に入れさせて頂いております。
どうぞ、続けてお読み下さいませ。


それでは、いってらっしゃいませ。




Heartbeat

セバスチャンが、僕の顔を覗き込んでいる。
いつものからかう表情は無く、こちらの様子を窺うように、静かな眼で。
僕は顔を背けるのも忘れて、あまりない距離からの視線を受け止めていた。
拍動が回数を上げていく。
血流の多さが、頬を紅く染め上げる。
想定したことも無かった情報が、僕の脳の回路を錯綜し、
思考を混乱させて、僕を一時的に凍りつかせてしまった。
唇には、まだ、少しひんやりとした柔らかな感触が残っている。
セバスチャンから受けた、キスの感触が。

うっかりというには、しっかりと意志を持ち過ぎていた。
単なる興味と誤魔化すには、深入りした質問だったかもしれない。
僕は、知りたかったから訊ねたまでではあったのだ。
それが危険な質問である可能性を考えなかったのは、確かに迂闊だったとはいえ。



セバスチャンが、長い廊下を歩いてくる。
背が高く、すらりとしていて、漆黒の髪の彼は、遠くからでも容易に見つける事が出来た。
長い脚を優雅に蹴りだして歩きながら、ジャケットをふわりと羽織り、
壁に凭れていた僕の前まで来ると、口を開いた。
「坊ちゃん、お待たせしてしまいましたね。」
ニコリと口角を上げて笑って見せる。
待たせていない事が分かっているのだ。
セバスチャンは、僕を待たせたことが無い。
正確には、待った気持ちになるほど待たせた事が無い。
時間に遅れても、5分と掛からず彼は来る。
僕は、安心して壁に凭れていればいいのだった。
「ああ。」
僕の答えは、いつも同じ。
それ以上は必要ない。
壁を離れて歩き出せば、一歩後ろに彼が従って来る。
体温に近い気配が僕を護る。
何も恐れる事はないのだった。

僕の両親は古い家系の資産家で、いくつかの事業をしていたのだが、
3年前に、古い家系ならではの裏の繋がりの者達の襲撃に合い、呆気なく死んだ。
使用人達と共に殺され、家ごと燃やされて、骨さえまともに残らなかった。
母の実の妹であるアンジェリーナ叔母様が、
主人を亡くして一人身だからと僕を引き取ってくれたのだけれど、
大きな総合病院の産婦人科医なので、当直の日、目の離せない患者を抱えている時は、
どうしても家に帰る事が出来ないという。
僕は別に構わないと言ったのだが、叔母は、
まだ10歳の僕を一人きりにするなど大反対、そんな事は出来ないと譲らない。
そして、同じ病院に勤めるセバスチャンに僕を預ける事を思い付いたのだ。
上司たる総合病院医院長の権限でこんな事を決められて、何とも気の毒な事ではあるが、
学生の頃は僕の家庭教師をしていた関係で、
長年の付き合いから僕の家の事情もよく分かっており、
叔母の自宅の近くに住んでいた事もあって、
自分がいない時に僕の事を任せる適任者として、彼を選んだのだった。
彼は高校、大学とスキップして医師になったので、
まだ年齢は若いけれど、形成外科医としての腕は非常に優秀であって、
他の病院から、彼の手術を受ける為に転院してくる患者もいるくらいであり、
非常に忙しい身の上だった。
そこを、自宅で出来る作業は持ち帰って構わないという特例を付ける事で、
叔母が都合のつかない時には、
夜間、セバスチャンに僕の子守りをさせる事が可能になった。

一人で住むには広すぎるマンションだが、
一室は、個人図書館かと思う様な量の蔵書の為に使われていたり、
別の一室は、紅茶の保管棚とティーセットのコレクションで埋まっていて、
広すぎて困る事はないようだった。
毎日をそこで過ごすわけでもないので、泊まる時だけ、ソファーを借りる気でいたのだが、
そういう訳にはいかないと、小さな部屋を宛がってくれた。
クローゼットの付いた部屋に、僕の為の机と椅子とベッドが運び込まれた。
他には何もない空間が、僕にはかえって居心地がよかった。
焼け落ちた屋敷の跡地に、以前と全く同じ作りの屋敷を再建したけれど、
事件の全容が解明されない間は、僕がそこに一人で住むのは危険過ぎるし、
帰ったからといって、何の感慨もない。
あの屋敷には、実際のところ何の愛着もありはしなのだ。
両親と、両親を知る者達が誰もいなくなってしまった中身の無い箱。
所用を頼まれ、出かけていたタナカだけは生き残ったけれど。
危険が無くても、広大さが虚しくて、まだ帰る気にはなれなさそうだった。
何れは、この部屋を出て屋敷に戻るが、今はまだ、猶予期間。
膝を抱えて、飛び上がれるだけの力を溜めるには、ここの方が居心地がいい。
セバスチャンは、仕事の合間に僕の家庭教師もしてくれるが、
基本的には、叔母様ほど干渉してこないので楽だし、
趣味の料理は、職業を間違えたのかという程の腕前で、
スイーツに至っては、まさに絶品と言えるものなのだった。
僕が経営している会社の製菓部門の開発者に、爪の垢を飲ませてやりたいと思う。
だから、月に7日前後程度の訪問を、僕はひそかに楽しみにしているのだった。

僕が10歳の時から始まったこの生活は、既に3年目に入る。
幾らこの手の事に疎い僕でも、もう、気にせずにはいられなくなってきていた。
容姿端麗、頭脳明晰、長身痩躯、品行方正、高収入。
これだけ揃った男に恋人の影が見えないのは、僕が邪魔をしているのではないかと。
無論、僕がここに来ない日の方が多いのだから、
恋人と会ったりする時間がない訳でもあるまいとは思うが、
叔母の話によると、院内の女医、女性看護師から誘いがあっても、
相手の期待するところまでは付き合わないのだという。
数人での飲食など、当たり障りのない程度だそうだ。
そこがまたいいと熱を上げる者も多数だと聞いたのだけれど。
セバスチャンのマンションにも、親しい女性がいそうな気配を感じさせるものは、
はっきり言って、何一つない。
几帳面な性格の彼らしく、いつでもきちんと整えられていて、
どうかすると、生活感さえ薄いくらいだ。
キッチン、洗面台、バスルーム。
そういうところには、女性の存在の痕跡が残りやすいとは、叔母の言葉だが、
本当に、きれいさっぱり、影も形もない。
こんな事で大丈夫なのだろうかと心配になる。
妙齢の男が、恋人の影も見えないとは。
もしも、僕がここに来る所為だったら・・・。
そろそろ、この居心地の良さを手放す時なのかもしれない。
ただ、元家庭教師だっただけなのに、僕の事を迷惑とも言わずにいてくれた。
付き合いの長い間柄の僕には辛辣な口はきくけれど、
好き嫌いの多い僕の為に、嫌いなものでも食べやすいように調理を工夫してくれたり、
話のついでに言った、気に入ったスイーツのレシピを調べて作ってくれたりと、
ちゃんと気を使ってくれているのを知っている。
これ以上、甘えてはいけない。
セバスチャンのマンションから引き揚げて、
誰か、個人的に警護をしてくれるものを探そう。
会社の警備を依頼しているところに、そんなサービスがあった気がした。
アン叔母様の家にその手の人間を入れるのは、色々あって面倒だ。
ホテルに泊まるか、マンションを借りるかしよう。
もっと早く、その事に気が付くべきだった。



今日も、セバスチャンは時間通りに医局のドアから姿を現した。
この姿を見るのも、あと数回あるかないかだ。
家令のタナカは、ああ見えて仕事は的確で早い。
明日の朝、セバスチャンの所を引き払う為の指示を出しておけば、
来週までにはいくつかの選択肢を提示してくるだろう。
契約等の手続きを終えるまでは、2週間も掛かりはしない。
その間の叔母の当直は、数回くらいだろうから。
セバスチャンは、いつものように僕の所へ真っ直ぐに歩いてくる。
黒い髪を揺らし、優雅な足取りで。
誰もが見惚れずにいられない、この美しい男を、僕が縛り付けてしまっていた。
申し訳ない事をしていたものだと思う。
もっと、 別の時間を過ごせただろうに。
想う人と過ごすというのは、僕には、まだどんなものかは分からないのだが、
心が落ち着いて、楽しいものなのだろう。
医者として激務をこなすセバスチャンには、そういう時間は掛け替えのないものの筈。
費やしてしまった時間を返す事は出来ないが、
これからの時間を、無駄にさせない事なら出来る。
あと数歩近づいたら、セバスチャンは、いつものように笑う。
いつものやり取りをする前に、言った方がいいだろうか。
セバスチャンが近付く僅かな間、僕は悩んだ。
「お待ちになりましたか?」
にこやかな笑顔に問われて、僕は言う言葉を失った。
「いや。」
いつもと同じそっけなさで答え、いつもと同じように歩き出す。
いつも通りに、背中にセバスチャンの気配。
だが、今日は少しだけ、居心地が悪かった。
終わりを、始めなければならないからだろう。



よく分からないが、僕は珍しく感傷的になっていたのかも知れない。
そうでなければ、あんな質問をしたりはしなかったに違いない。
あんな、恋人がいるのかどうかなど。
何かは分からないが、自分に対する制御を失っていたのだと思う。
浮かんだ疑問を、疑問のままにしておく気になれなかった。
そして、声に出して訊ねてしまったのだ。
セバスチャンは暫くの沈黙のあと、言葉で答える代りに、僕にキスをした。
ヒンヤリとした唇を寄せて来て、触れて、少しだけ、僕の唇を食んだ。
全くの不意打ち。
予想外、想定外、想像外。
暫く途方に暮れていた僕だった。
酷い悪戯を思い付いたものだと罵ってやろうと、
僕から距離を取ったセバスチャンの目を見て、また、途方に暮れた。
そこには、からかう気など欠片ほども持ち合わせていない、
寧ろ、余裕が無いくらいに真摯に僕を見詰めている目があったから。
信号が青になり、セバスチャンは車を静かに発進させた。
無言で車を走らせる彼の横顔を、僕はまともに見る事が出来ない。
けれどその、僅かな濁りも無い水が溢れてくるような佇まいに、
どうしても視線が引き寄せられて、顔は正面を向いたまま、
ちらちらと端正な彼の顔を盗み見ていた。

「少し、寄り道をしても構いませんか?」
もうじき、彼の自宅マンションという所で、セバスチャンが言った。
心臓が痛いくらいギュッと収縮したが、出来る限り冷静ないつもの顔と声で答えた。
「ああ。」
返事とも言えない短い発音が、何と苦しい事だろう。
昼間は小さな子供達と保護者、近隣の高齢者が集い賑やかな広い公園の駐車場に、
吸い込まれるように入って車を止め、エンジンを切った。
「外の空気を吸いましょう。」
そう言って車を降りるセバスチャンに従って、僕も車を降りた。
ヘッドライトが消え、街灯だけになると、
暗い空に小さな星が散らばっているのが見える。
医局前の廊下を歩く時とは逆に、今はセバスチャンが僕の前を歩いて行く。
駐車場の傍にあるベンチまで行くと、僕に腰掛けるよう勧め、自分も腰掛けた。
僕とセバスチャンの距離は、小さな子供一人分。
普段なら、もっと近くに座っていても気になる事などないのに、
なぜか、奇妙に緊張を覚えた。
そんな僕の表情に、セバスチャンがフッと笑う。
「坊ちゃん、ここ、皺が寄っていますよ。」
そう言って、細いけれど節のしっかりとした男らしい指で自分の眉間を撫でて見せた。
僕が慌てて眉間を撫でると、セバスチャンはくすくすと失笑を漏らした。
「笑うな!」
照れながらのそんな言葉に、さしたる効力は無い。
憮然とした僕を、セバスチャンは笑顔で見ているばかり。
「何なんだ!僕を嗤う為にここに連れて来たのか?!」
そう言うと、セバスチャンの顔から楽しげな笑みが消え、
車の中で見せた、あの、真剣な顔になった。

「坊ちゃんは、どうして私に恋人がいるかどうかをお聞きになられたのですか?」
聞かれるとは思ったが、やはり来た。
「好奇心だと言った。」
心臓が、また脈の回数を増やしていく。
「では、私がキスをした訳がお分かりになりますか?」
セバスチャンの唇の感触が、僕の唇の上に甦る。
ひんやりして、柔らかくて、適度な弾力があった。
頬どころか、耳まで熱くなっていくのが感じられる。
「知るか!」
そう以外、答えられなかった。
なぜなら、本当に、どうにも分からなかったのだ。
悪戯でないのはセバスチャンの表情から分かったが、
では、どういう訳かと問われると、分からないとしか言えない。
悪戯でないから真剣とは言えないし、真剣という事になると、それはつまり・・・。
かつて考えた事のない事柄に行き着く。
鼓動は、既に早鐘を打っている。
「坊ちゃん、お気づきになられませんでしたか?」
微笑するセバスチャンの口調は、幼子に対するようだった。
「気付くとは、何にだ?」
今の言い方は、失敗だ。
聞いてはならない事を聞かされてしまう。
もう、肋骨に響く程、心臓の拍動が激しくなっている。
これ以上心臓が膨張すれば、骨が折れてしまうのではないだろうか。
「キスは、お厭でしたか?」
僕を真っ直ぐに見据えるセバスチャンの瞳に、僕が映っている。
目を見開いて、答えに窮している。
けれど、嫌悪を感じている顔ではなかった。
驚いてはいるのだが、厭だと思っているようには見えない。
そうだ。キスされた時は吃驚したけれど、それだけだった。
厭ではなく、どちらかといえば、寧ろ、もっと・・・。
僕の眼が、セバスチャンの瞳の中で揺れている。
「・・・いや。」
僕は、居たたまれなさに顔を背けた。
嘘を吐く奴には、幾らでも嘘を吐けるが、
真摯に向けられた言葉に嘘で返す事は、僕には難しかった。
それは、相手がセバスチャンだからなのかもしれないが、そこには触れたくない。
「貴方以上に、私の心を占める方がいないからですよ。」
セバスチャンの唐突な言葉が、何に対するものか分からず、
僕は再び彼の瞳を覗く事になった。
「何の話だ?」
「私に恋人がいるように見えない理由です。」
思考が迷路を回りながら、必要なピースを拾い、繋ぎ合わせていく。
構成されていく正解は、僕の心臓を壊そうとするものだ。
これ以上踏み込んではならない、引き返せ。
僕のその指令を無視して、どんどん形が明確になっていく。
視界が歪んで見える。
水の膜が掛かっているらしい。
セバスチャンが、僕に両腕を差し出してきた。
すっぽりと僕を包み込む低めの体温。
目の前にあるこの温かさに、僕は捕らえられる。
体重を預けて行けば、腕の力を強めてきた。
「私が欲しいのは、坊ちゃんだけです。」
やはり、聞いてはならない事を聞いてしまった。
後悔などしていないが。
セバスチャンのジャケットを固く握りしめる僕の手は、意志より先に動いたもの。
「坊ちゃん、お顔を上げて。」
甘い声に従い、セバスチャンの胸元から顔を上げる。
怖いくらいに整った顔に、甘い微笑みを湛えたセバスチャンが僕を見下ろし、
顔を近づけてきた。
僕はゆっくりと瞼を伏せながら、セバスチャンの唇に自分の唇を寄せた。
セバスチャンの唇が、口角を上げて喜んでいる。
座っている距離の遠さをもどかしく思ったのか、どちらからともなく近付き、
より深く唇を食んで、長いキスを愉しんだのだった。



END



※※※  ※※※  ※※※

あとがき

キッド様、続きを書く事を快く承諾して下さいまして、
本当にありがとうございました。
お陰様で、楽しく書かせて頂く事が出来ました。


お読み下さいました皆様、
このお話し、この後がお気になられる方がおありでしたら、
続き希望!という事で、挙手をお願い申し上げます。
(いえ、一番気になっているのは、多分、私でしょうけれど^^;
坊っちゃんは、セバスとすっかり同居するのかとか、
アン叔母様は、どう対応するのかとか、気になったリして・・・。)

次回作も構想中です!頑張ります!!

            たままはなま
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や~んいいところ。今さらながら続き希望!はダメですか?

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たままはなま

Author:たままはなま
生息地域 日本で唯一、神無月の無い県
誕生日  5月24日(双子座)
血液型  AB型
行動の指針 後悔は少ない方がいい。やらずに後悔する位なら、今やって失敗した方がいい。「このままで、明日、命を落としても後悔しないか?」これが、最終判断の基準です。
黒執事キャラ占いで、47%がセバスチャン、タナカが33%、劉が10数%、葬儀屋が8%、アバーラインが数%、坊ちゃんが1%で出来ていると出た人。
歯医者の待ち時間や、通勤の運転中にも、次回の執筆のネタを考えている創作好き。
こんな管理人でございますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます<(_)>

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