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待ち人

2011–06–26 (Sun) 11:49
このお話は、この所の更新の遅さが申し訳なくて、
何か、小さなお話をと思い、書き上げました。

いつも、皆様が楽しみにして下さっている事が、
どれだけ私を励ますでしょう。
それなのに、当初予想を裏切る体調不良の長引き方に、
私自身を歯痒く思っております。
そんな訳で、
次のお話を書き上げるまでに、こんなお話も面白いかと。


それでは、いってらっしゃいませ。



待ち人

窓際で、眼下に広がる街並みを見遣る。
沢山のビルが林立している谷間を、多くの人間が行き交い、
道路を、とりどりの色の車が疾走していく。
喧騒は、昼夜の区別がない。
この高さからでは、人は小指の先ほどにしか見えないけれど、
僕には、ヤツの姿を見つける事が出来るのだ。
あのビルの角を曲がって、もうすぐ、ヤツの姿を捉える事が出来る筈。



ヤツが出かけた後、僕は、怠惰な一日を過ごす。
寝心地の良いソファーでうたた寝を繰り返したり、
室内を、目的も無くウロウロしてみたり、
ヤツが用意した玩具で気を紛らわせてみたりするのだ。
一人だけの時間は、退屈で堪らない。
ドアのロックが外される音だけを、待っている僕。



ヤツは、とても忙しいのだ。
僕は、そのことを充分に知っている。
時には、早い時間に家を出なければならない日もある。
逆に、遅くなるまで帰って来られない日もある。
予定が立っていれば、ヤツは、僕にそう告げておくが、
急な用事が出来れば、連絡もないまま、僕は窓際で目を凝らし続ける事になる。
グレナデンシロップを垂らしたカクテルのように、底に朱を置き始めた空が、
暗い蒼の帳を下ろすように次第に明るさを失い、
やがては、黒のビロードに小さな輝くガラスビーズを散りばめた天蓋に変わる。
ただ、じっと見詰めているしか僕には出来ないから、
ヤツの姿を見逃す事のないように、窓際を離れないでいるのだ。
もう帰らないなら、そう言えばいい。
帰って来るなら、早く帰って来い。
捻じれる気持ちを、ヤツは知っているのだろうか。



ガチャリ。
鍵が回される音で我に返れば、僕は、待ちくたびれて眠ってしまっていたようだったが、
ドアが開き始める時には、僕は玄関に向かって駆けだしていた。

玄関ドアの向こうに、ヤツがいる。
駆けてきた僕を見つけて、眉尻を下げた顔で笑う。
「申し訳ありません。遅くなってしまいましたね。」
僕は、声も掛けずに踵を返した。
知っている、分かってはいるのだ。
ヤツが、何事も無いのに、こんな時間まで家を空けたままにする事はないのだと。
けれど、簡単に許してやる気にはなれない。
仮にも、主である僕を、こんなにも待たせたのだから。
先を行く僕の後に付いて来ながら、ヤツは言う。
「ただいま、シエル。」
そんな猫撫で声を出しても駄目だ。
僕を不機嫌にさせたのは、お前だ。
「シエル?」
挨拶もしない僕に、ヤツが触れようとする。
僕は、振り返りもしないで、ヤツに返す。
「にゃにゃ~ぁお。」
ヤツは、驚いたようだ。
「え、シエル、今何と?」
聞きたいなら、聞かせてやる。
「にゃにゃ~ぁお。」
「え、シエル・・バカ野郎ですって?」
そうとも、バカ野郎だ。
「ん~ぅん」
「酷いですよ、シエル。
今度から、早く帰るようにしますから、ご機嫌を直してください。」
ヤツのほっそりと形の整った指が、僕の頭を撫でる。
掌が、宥めるように背中を一撫でした後、
両手が僕を抱き上げて、ヤツの胸元に連れて行かれた。
仕方のない奴だ。
帰宅した下僕に、挨拶くらいは返してやる。
「にゃにゃ~ぃん」
ヤツが、とろりと微笑む。
「はい、シエル、ただいま。」

僕を抱いたまま、リビングへ向かうヤツが言った。
「それにしても、バカ野郎なんて、どこで覚えたのですか?」
そんな事、お前は知らなくていい。
僕が退屈しのぎに、テーブルの上のリモコンでテレビをつけて観ているなどと。
「困った方ですね、シエル。」
微塵も困っていなさそうなのだが、ヤツは、いつもそう言うのだ。
「今夜は、すっかりお待たせしてしまったお詫びに、極上のマグロをご用意致しました。
そのまま薄く切ってお出ししましょうか、それとも火を通しましょうか。
表面だけ、軽く焼くのもいいかもしれませんね。」
僕に頬を摺り寄せて、ヤツは楽しそうにしている。
まったく、困ったヤツだ。
そんな顔をされたら、いつまでも怒ってなどいられないじゃないか。
仕方なく、僕からヤツの顎の下に頭をコツリと当て、小さく喉を鳴らす。
本当に、仕方なくだから。
「シエル、可愛らしいですね。」
ヤツは、上機嫌だ。
外でどんな顔をしているのか、その片鱗を見る事は少ないが、
少なくとも、こんなに甘い顔ばかりするような性質ではないらしい。
ごくまれに掛かる仕事関係の電話での応対や、
やはり仕事関係のメールを読んでいる時に見せる表情からみて、
どちらかといえば、真逆なのではないかと踏んでいるのだが、
僕は外には出られないので、確認は出来ない。
しかし、そんなことを知った所で、僕たちの関係が変わるわけでもないのだから、
外でのヤツの顔など、どうでもいい事だ。
今、ここに居て、僕を抱き締めているヤツの事だけ、僕は知っていればいい。
ヤツのこの笑顔は、僕が独占するのだ。



End



※※※  ※※※  ※※※

あとがき

実は、このお話しには元ネタがございます。
私の大好きな動画から書き起こしました。

長毛種の黒い猫さんと、その子にメロメロな飼い主さんの、
かなり有名な動画です^^
飼い主さんが帰宅すると、おしゃべりしてくれる猫さん。
ある日、大幅に帰宅が遅れた飼い主さんに、
黒猫さんが「ばかやろう」と鳴くのです。

この方の動画は、時間を忘れて見入ってしまうので、
私には、大変危険です^_^;

たまには、こんなお話を書かせて頂くのも、
とても楽しいです。

皆様のまたのお越しを、心よりお待ち申し上げております。

               たままはなま

追記

私も参加させて頂いております企画は、
それぞれ、沢山の作品が寄せられ、
見ごたえのあるものとなっております。
よろしかったら、拙ブログのリンクより跳べますので、
是非、覗いてみて下さいませ^^
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Author:たままはなま
生息地域 日本で唯一、神無月の無い県
誕生日  5月24日(双子座)
血液型  AB型
行動の指針 後悔は少ない方がいい。やらずに後悔する位なら、今やって失敗した方がいい。「このままで、明日、命を落としても後悔しないか?」これが、最終判断の基準です。
黒執事キャラ占いで、47%がセバスチャン、タナカが33%、劉が10数%、葬儀屋が8%、アバーラインが数%、坊ちゃんが1%で出来ていると出た人。
歯医者の待ち時間や、通勤の運転中にも、次回の執筆のネタを考えている創作好き。
こんな管理人でございますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます<(_)>

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